GSX-R1100 '86

バイクは250ccもあれば十分。通学、ツーリング、街乗りで全く不足は無い。
そう考えていた自分がGSX-R初期型に憧れてしまった。
毎日毎日GSX-Rが載っている雑誌を眺めてため息をついた。
買おうと思ったのは赤黒の87年型750。
リッターバイクは高いし。持てあますし。自分には750位の方がちょうどイイと思っていた。
しかしあるとき白青の86年型1100の中古を見つけた。金額的にも750の相場よりちょっと高いくらいだった。
数日悩みに悩んで購入を決定。契約したのは練習場に通い始める前だった。
練習期間25日、限定解除一発合格を果たした。

まだ雪が残る3月。 近くのSBSでこのバイクを見つけ、寒い中ずーっと見ながら悩んでいた。
「1100…? いやぁ、俺に1100なんて…無理無理…でもなぁ…」
店長が出てきて、しばらく話していたが、全然そこを動こうとしない自分に耐えかね、「寒いから中に入りませんか…?」
中に入ってテーブルに座り、なおも窓越しにずーっと見つめていた。

3日後、代金の半分を持って再び店へ。 「買います!」
その数日後、「他にも見に来た人がいて、売れたと聞いて残念がっていた」 っていう話を聞いた。
自分は優柔不断だから、悩んでるうちに他の人に取られちゃうって事が多かった。
今回は自分が他の人をがっかりさせる役になったわけだ。 うれしいうれしい。 
これは俺のバイクだ! 初めて彼女が出来た時のようなワクワクと、あったか~い幸せ気分でいっぱいだった。

左は記念にもらってきた、車体に貼ってあった値段札です。
店頭で車両を受け取り、またがってからもなかなか道路に出られなかった。
初めての前傾姿勢、初めてのモンスター。怖くて走り出せなかったのだ。 歩道から車道に出る小さな段差すら怖い。

意を決して走り出す。 ゴゴゴッという音と振動、まるで戦車だ。 「うわー、なんじゃこりゃー」
60km/hくらいで走ってるのに迫力に圧倒されてしまった。
すごすぎる!…この時の感動は一生忘れられないものになった。
油冷エンジンにはハマった。
低速では檻の中でもがく猛獣。
開けると怒涛のダッシュで体がのけぞる。
6000rpmで谷があって加速が鈍るため、のけぞった体が前に放り出される。
谷を超えたら再びのけぞる。 そこから先は狂気。 バケモノ。
GSX-Rはアンダーカウルを取っても無骨さが強調されてカッコイイ。
美しい油冷エンジンは見せるべき。

中身はバケモノなのに、見た目がすごくエンジンらしくて、妙にあたたかみのある外観。
このデカイ面がいい。
いかにも耐久レーサーレプリカっぽい。

またがると、ついたてのような大きいスクリーンにもぐりこむようなポジションになる。
最近のレプリカ系バイクはノーズもスクリーンも低いから、人間がまたがると上半身がニョキっと出てるみたいに見えるけど、
この頃のレーサーレプリカは人間がまたがった時にデザインが完成する、またがった時にカッコよくみえる形だと思う。

荒々しい印象の強い油冷エンジンだけど、ツーリングに使ってみると意外とぬくもりがある事がわかる。
ジーっていうメカノイズもイイ雰囲気。 エンジンがここでがんばって回ってるぞ っていうのが伝わってくるのがイイ。
エンジンがどこにあるのか分からないようなバイクはつまらない。
エンジンの存在感っていうのは うるさいマフラーをつけたって感じられるものじゃないと思うんだよね。

巨大なマフラーは円筒形ではなく、実はスイングアームを避けるため内側が大きくえぐれてる。
排気音はドスがきいてて迫力があるけど、よく聞くとポコポコという音がまじっててカワイイ。
この巨大なスクリーンも現代のバイクには無い独特の雰囲気。
左右非対称のオフセットされたホワイトパネルの二眼メーターがカッコイイ。

3000rpmからはじまるタコメーターはトップだと80km/h以上で初めて針が動き出す。
メーター照明は一般的な透過光ではなく、ふちから光が漏れてくるタイプ。見づらいけど、クラシカルで雰囲気はイイ。

雑感

初めてバイクに乗ったときの衝撃だとか感動だとかは覚えていない。 多分自分にとってたいしたインパクトが大きいものではなかったんでしょう。
でもこのGSX-Rに乗ったときのインパクトはよく覚えている。 自分にとってはまさに衝撃だった。
50~60km/hで走っているのに体にビシバシ伝わってくる迫力。 大げさではなくこいつはバケモノだと思った。

SUZUKIは下での力を出すのがうまくて、トルク型のエンジンが多い。 油冷はそのなかでも代表選手のようなもの。
洗練されたスムーズさとは程遠い、「迫力」という言葉がぴったりの音と振動とフィーリング。 もう量産車でこんなバイクは出てこないんだろうなぁ。
「名車」ではなく「名機」としてエンジン単体で語られることが多いのも珍しい現象だと思う。

カタログより


88年のSUZUKIのコンセプト 「Break Free The Potential」
この広告とフレーズが大好きだった。
GSX-R750のカタログにも当然多くのサーキット写真が使われてる。
文字の少ない見開き写真のページも多くて、贅沢な造り。

「1gたりとも見逃さない強固な意志がR750の全身を貫く」

諸元

全長…2,115mm 軸距…1,460mm
シート高…810mm 乾燥重量…197kg
最高出力…130ps/9,500rpm
最大トルク…10.3kg-m/8,000rpm
面量タンク容量…19L
Fタイヤ…110/80-18
Rタイヤ…150/70-18
カラー…青/白 ・ 赤/紺

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