99年 年越し西日本一周

仕事をやめた。去年まではまとまった休みを取りやすかったが、今後はそうはいかないに違いない。
もしかしたら、もう旅はできないかもしれない。
せっかく失業したのだから最後のつもりで旅にでよう。

しかし時は12月。いくらなんでもムチャじゃないか?
寒くてツライばかりで全然楽しい思い出にならないかも…おまけに危険も多い。親にも反対された。
迷ってるときにドカ雪も降って、さらにめげてきた。

しかし、ここでムチャしてでも旅に出ておかないとゼッタイに後悔する。
行く気が失せてきた心にムチ打って、自分に強制をした。
こうして出発した12月22日 初めての冬の旅 しかも年越しツーリング。
目指すは九州。

12/22-23 小樽港-舞鶴港

小樽まで自走のつもりが、前日にドカ雪が降ったため 友人のハイエースを借りてフェリー乗り場までバイクを運んだ。
いざ乗船という段階になって、寒すぎてエンジンがかからない。
結局フェリーの乗組員に手伝ってもらってバイクを押してフェリーに乗りこんだ。
軽量なセローも荷物満載で雪の上となると重い重い...。

27時間後。舞鶴港の夕日。
これからの旅は一体どんなことになるんだろう...。
舞鶴市内は雪。でも路面は出てる。
とりあえず近くの公園にテントを張る。
雪の上にテントを張ったのははじめてだ。

寒い。異常に寒い。
バイクに乗るときの完全防備のまま寝袋に入れば大丈夫と思っていたが甘かった。
寒すぎて眠れない。眠りについてもすぐ目がさめる。うー、つらい...。
早く朝にならないかな...

12/24 舞鶴-広島

まだ真っ暗なうちから動き始めた。
こんな寒い中一晩置いてエンジンはかかるのか心配...しかし難なくエンジン始動。よかった。
西に向かうにあたって、日本海側を走るか、瀬戸内海側に出るか かなり迷った。
瀬戸内海側のほうが雪が無いのはわかりきっていたが、山を越えるのが不安だった。
結局山越えを選んだ。この選択は正解。
雪があったのは舞鶴市内だけで、内陸に入ったら峠でさえ雪は無かった。
日本海側を走っていたらずーっと凍結路面を走ることになっていたかも。

それにしても寒い。手も足もビリビリしびれて痛い。凍傷になりそうだ。
寒さ対策は完璧のつもりだったのに、寒さのレベルは自分の予想を完全に上回っていた。

広島県のキャンプ場。係員の人は全く時期ハズレのキャンパーに随分親切にしてくれた。
雨が降っていたので管理小屋の軒下にテントを張らせてもらった。夜は番犬と二人きり。

12/25-26 広島-山口-大分

クリスマスの25日は山口県でキャンプをし、26日いよいよ九州上陸。
別府で地獄めぐり。
この世のものとは思えない風景が好きな自分としては、この地獄めぐりはかなり楽しめた。

夜は誰もいない真っ暗なキャンプ場の芝生に一人ゴロンところがって星空を眺めた。
星との距離感がわからなくなって吸い込まれてしまいそうな感覚だった。
寒かったけどずーっとこうしていたい気分だった。

12/27 大分-宮崎

日毎に荷物は増えて行った。
毛布、毛糸の靴下、毛糸のももひき、足に貼るカイロ、寝袋もう一枚。
寝る時は、バイクに乗ってるときの完全防備+足にカイロを貼って更に毛糸の靴下+スキー用の毛糸の帽子+毛布にくるまる+寝袋2枚。
これでなんとか寝られるようになった。

朝 目覚めると、テントの中に干しておいた洗濯物がバリバリに凍ってる。 テントもバリバリ。バイクもご覧のように凍ってる。
ちなみに夜テントを広げると朝の氷がザラザラーっと出てくる。
早朝 標高1,300mのやまなみハイウェイを超える。
路面は凍結。死ぬほど寒い。いま地図のどのあたりにいるんだろう。
もう進みたくない。でも戻ることもできない。
手足の感覚はほとんど無く、ブレーキもまともに握れない。
体がブルブル震えてとまらない。鼻水が流れるのもわからなくなってる。
バイクに乗るってこんなにツライものだったのか...泣きそうだった。

しかし、この峠超えは妙な自信につながった。俺ってスゴイな...。
古閑の滝。滝が凍ってる!
冬に旅に出てよかったと思わせる。こんなすごいものが見られるなんて。
2月までこの氷の滝は更に成長し、春には氷が落ちる音が遠くまで聞こえるらしい。

九州は山が美しい。東西南北どこをみても山脈に囲まれてるようなところもある。
まさに山脈という表現がふさわしい迫力のやまなみがいろんな所で見られる。
阿蘇山のカルデラを見る。蔵王の御釜の静に対してこちらは動。

山を降りてから真名井の滝がそそぐ川でボートに乗って、滝のしぶきを浴びる。

12/28 宮崎-鹿児島

綾では世界一の歩く吊り橋を渡る。
吊橋の足元が格子になっていて下が丸見えの部分があるのだが、そこを歩くのはスリルがあった。
犬を連れた家族連れも来ていた。
犬も軽快に歩いていたのだが格子の所だけは足が止まってしまって抱きかかえられてた。
犬も高さ感がわかるんだな。

宮崎では手で2時間足で2時間こねたという有名なうどんを食べ、いろんなものが入った名物「なんじゃこら饅頭」を食う。
日南海岸。鬼の洗濯岩。
数十キロに渡ってこんなのが点在してる。面白い面白い。
潮の満ちひきで顔を出したり隠れたりするらしい。

青島は全てこんな岩で出来た地続きの小さな島。極小の貝殻が砂のように島を取り囲む。

12/29 鹿児島-熊本

桜島。
遠くからチラッと見るだけのつもりだったが、
その迫力に圧倒されて島を一周した。想像以上に素晴らしかった。
煙は一定に吹いてるのかと思ったが、時々黒くてデカイのがバフーっとあがる。
桜島は脅威でもあるのだが、九州の顔でもあり、自然の力と迫力と美しさを感じられる場所でもある。
ツーリングに出ると都会はできるだけ走らないようにしている。
ごちゃごちゃしたところは時間もかかるし、つまらないし、危険でもあるからだ。
でも熊本ラーメンが食べたくて、そのためだけに熊本市内に突入した。
んまかった。

熊本城はちらっと見ただけでおわり。
基本的に人間が作ったものにはあまり興味が無い。

12/30 熊本-長崎  12/31 長崎

球泉洞。
探検コースの終点に待ち受けていたストローの大群。
そしてその中央には純白のストローが輝いている。素晴らしい。

別料金の探検コースの類は必ず行くようにしている。
そういうコースにはそこの鍾乳洞の一番イイ顔が隠されているからだ。
熊本から島原へは船でショートカット。
船には「カモメのえさ」としてパンのミミが売ってる。
カモメはかなり目がいいようで、遠くに浮かんでるカモメの群れのほうに向けてミミを投げると一斉にこちらに向かって飛んでくる。
投げたえさを見事にキャッチし、時には手から直接取る。
そのままカモメの大群は船と一緒に熊本から島原まで同行する。
みると、すれ違う島原からの船にも大群が付き添っていた。

2泊した雲仙普賢岳のふもとのキャンプ場。 ここで年を越した。
日本中が紅白をみたりカウントダウンをして大騒ぎしているであろう時に、自分は10時頃にはもう寝ていた。

1/1 長崎-大分

2000年元日。いつも早起きしてすぐ走り出す自分だが、このときばかりはゆっくり朝の時間を過ごした。

キャンプ場のそばにある湖でカモやガチョウにえさをあげる。
えさにむかってチョコチョコと突進してくる姿がカワイイ。
でもカロリーメイトをあげたのは栄養過多だったか...
原尻の滝。豊後のナイアガラとよばれる。
東洋のナイアガラとよばれる木曽の滝も素晴らしかったが、こちらはもっと良かった。
水が落下し始める地点に簡単に行ける。うーん、飛び降りたい。

稲積水中鍾乳洞。
今まで見た中でもっとも荒荒しい雰囲気の鍾乳洞だった。「嵐をイメージした彫刻」って感じ。

1/2 大分-愛媛

風連鍾乳洞。
ちょっと狭い鍾乳洞通路を歩く。 まぁ極普通の鍾乳洞だなと思いながら歩き続けた。
コースの終点だけは大広間になっていた。
びっくりした。 その「竜宮城」と呼ばれる空間の美しさは感動を通り越して衝撃的ですらあった。
そこは日本中の美しい鍾乳石を全て集めた博物館のようだった。
美しく、繊細で、荒々しく...完全に打ちのめされた。
あーなんということだ。こんなにも芸術的な空間がこの世にあったなんて...。
なかなかここを離れられなかった。
四国上陸。
今日は成川渓谷キャンプ場に泊まろう。どこかで聞いたことのある名前だが...
現地に来てびっくり。忘れていた。ここは4年前の四国一周で泊まって、大好きになったキャンプ場だ。
またここに来れるなんて幸せだ。
4年前と同じように渓流に足をつける。
さすがに冷たいから、4年前のようにそのまましばらくボーッとするって訳にはいかないが。

1/3 愛媛-徳島

最後の清流 四万十川
四国ツーリングの時は下流を見た。 ここは中流。 見た感じ特に清流という感じはしない。

四国に来たからには龍河洞を見ないわけにはいかない。 ここは自分を鍾乳洞フリークにした場所だ。
しかし、あれ以来素晴らしい鍾乳洞を沢山見てきたせいか、4年前に感動した龍河洞は、今となってはなんてことはない鍾乳洞だった。
年が明けてから時々バイクとすれ違うようになってきた。
今まで毎晩一人ぼっちだったのが、この日初めて他のキャンパーと一緒になった。
彼は名古屋から来ていた。

1/4 徳島-淡路島

淡路島上陸。
入り口は大鳴門橋、出口は明石海峡大橋。
4年前の瀬戸大橋と合わせて、四国を地続きにする大きな橋を3つ制覇したことになる。

ぶんたんを買いたくて探したんだけど、冬だから完全なシーズンオフ。みかんのように小ぶりなものしか見つけられなかった。
最後のキャンプは海沿いのガレ場。
夜明け前に目が覚めた。 海の上に無数の漁船の灯りが見える。
しばらーく真っ暗な海を眺めていた。

1/5 淡路島-舞鶴

陽が昇る前の薄暗い時間帯に走り出すことを好む自分だが、今日は最後の朝だからゆっくりのんびりしよう。
テトラポットに腰掛けて1時間以上海を眺めていた。

魚のジャンプや海鳥が魚を捕らえるシーンが見られた。

舞鶴港に早めに着いて、北海道上陸の準備をする。前後タイヤにロープを巻く作業に3時間かかった。
うーむ、見事なフィニッシュ。船の乗組員の注目の的だった。
1/7早朝に上陸した小樽は、全く雪が無かった。 がっかり。雪上走行を楽しみにしていたのに...
真冬にツーリングに出るなんてむちゃくちゃなことだと思っていた
ツライばかりで全然楽しくないかもしれないと思っていた
しかし今回の旅は想像をはるかに超えた素晴らしいものになった
冬にしか見られない風景、冬だからこその特別な経験というものがある
冬に旅ができることがわかってしまったのは果たして幸か不幸か...
総走行距離 3,294km

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